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戦争法廃止をめざす東大有志の会のブログです

中東研究者有志アピール第三報

ガザ危機の深刻化とイスラエルによる戦争拡大を憂慮し、日本政府および国際社会に行動を求める声明(第三報)

https://sites.google.com/view/meresearchersgaza/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/%E6%9C%89%E5%BF%97%E3%82%A2%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%AB%E7%AC%AC%E4%B8%89%E5%A0%B1?authuser=0

パレスチナ・ガザの状況は破局的様相を呈している。イスラエルによる全面攻撃、市民に対する無差別殺戮の結果、昨年10月以来現在までに少なくとも4万3千人以上が死亡した。(英医学誌『ランセット』掲載論文が今年6月までのデータに基いて示した試算によれば、依然瓦礫の中に埋もれている遺体や関連死を含めた死者数は18万人以上。)住民の9割が住居を失った。食糧・水・燃料・医薬品の供給も途絶し、飢餓が広がっている。病院・学校・難民キャンプも執拗な攻撃の対象となり、特に現在ガザ北部では住民の包囲・殺戮・強制移動など凄惨な光景が現出している。さらにこれまでガザはじめパレスチナの人びとの生活を支えてきた国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)の活動を事実上禁止する法律がイスラエル国会で成立するなど、人が生存する権利自体が公然と否定されるような極限状況が生じている。

これはまぎれもない「ジェノサイド」(集団抹殺)だという認識が広がっており、ガザの事態は「ジェノサイド条約」(1948年)違反だとする南アフリカ等の提訴に応じて、国際司法裁判所(ICJ)は既に2024年1月、「ジェノサイド予防のための全手段を講じることを求める」暫定措置(命令)を発した。これを受けて同4月には、国連人権理事会でイスラエルへの武器禁輸を求める決議が可決されている。

またガザおよびヨルダン川西岸は、1967年以来イスラエルが占領下に置き、撤退を求める累次の国連決議も無視して57年間にわたり支配を続けてきた地域であり、事態の根底には「占領」という問題が存在することも世界の共有認識となりつつある。ガザ危機と並行して、西岸でもパレスチナ人に対する暴力が激化している。ICJは2024年7月にはガザ・ヨルダン川西岸・東エルサレムに対するイスラエルによる占領は不法であるとしてその終了を国際社会全体に訴える勧告的意見を発し、同9月には国連総会で1年以内の占領終了を求める決議(日本も賛成)が採択された。

〇 このように国際的批判は強まりつつあるが、イスラエルはこれを一顧だにせずにガザでの殺戮・破壊を続け、さらに最近は、かつて侵攻し、その一部を占領下に置いたことのあるレバノンへの再度の侵攻、イランへの挑発・攻撃など、「戦線拡大」の動きさえ見せている。特にレバノンでは無差別攻撃により多くの市民が犠牲となり、避難を強いられる等の状況が生じており、レバノンが「第二のガザ」となる危険性(国連事務総長による表現)さえ指摘されている。ガザの場合同様、イスラエルが軍事作戦の名目として掲げるのは「自衛」であるが、「野蛮に対する文明のたたかい」(ネタニヤフ首相の米議会での演説)の名のもとに繰り広げられつつあるこれらの戦争は、強大な軍事力と米国の支援をバックに、中東全域を自国の影響下に置く「新中東」秩序作りをめざすものとも言える。自国の「自衛」や「安全確保」を口実に武力で近隣諸国を蹂躙するこのような暴挙、拡張主義的行動が許されるならば、今後イスラエル周辺地域の国々からは「主権」も「平和」も失われることになろう。国際法を無視して殺戮と戦争を続けるネタニヤフ政権の姿勢――それは1930年代に日本が世界大戦へと歩んだ道でもある――は、国連憲章国際法に基づく秩序自体を破壊するものであり、究極的には中東のみならず世界全体を破滅の淵に立たせるものである。

ガザの状況をめぐり、欧米では市民や知識人、政治家が戦争反対の声を上げると、「反セム主義(=反ユダヤ主義)」との批判・攻撃を受けるという現象が観察されるが、米国等のユダヤ系の市民が「これは私たちの戦争ではない」として声を上げていること、またイスラエル国内にも政府を批判し戦争終結を求める市民の動きが存在することが示すように、イスラエル政府とユダヤ人を同一視することは誤りである。むしろ、戦争反対の国際世論を封じ込めるための仕掛けとして「反ユダヤ主義」というレッテルが用いられていることの問題性に注意することが必要だろう。

〇 私たち中東研究者有志は既に昨年10月の危機発生以来、即時停戦・人質解放、ガザ救済と国際法の遵守を訴えるアピールを発し、問題の平和的解決に向けて提言を行なってきたが、1年を経て状況が一層深刻化し、今や中東全体に戦争が拡大しつつある現在、国際社会が決意を持って殺戮と戦争をやめさせるため行動を起こすことが急務であり、またその過程で日本自らもその役割を果たすことが求められると考えて、あらためて以下のことを訴える。

1.イスラエルに対する国際的武器禁輸。国際司法裁判所(ICJ)の暫定措置および国連人権理事会の決議を尊重し、イスラエルへの武器の輸出・提供を行なわないこと。

2.停戦を求める国連総会および国連安保理での諸決議に実効性を持たせるための国際的圧力を強めること。戦争拡大を続けるイスラエルに対する、国連における「平和のための結集」など。

3.ガザに対する人道支援を一刻も早く実施・拡大すること。国連機関であるUNRWAの活動を禁止するという暴挙に対する国際的批判・圧力を強め、これを撤回させること。国連関係機関・人員が攻撃・殺傷の対象となり、その活動が妨害されていることを糾弾すること。

4.占領の終結国際司法裁判所の勧告的意見および国連総会決議に従い、ガザ・ヨルダン川西岸・東エルサレムに対するイスラエルの占領を終結させ、入植地を撤去させるための国際的圧力を強めること。

5.問題の根本的かつ平和的・包括的解決への道筋を示すため、国際社会がパレスチナの人びとの民族自決権の実現、パレスチナ独立国家の樹立と国連加盟を明確に支持すること。

6.国際法遵守と停戦、占領終結を求める国際的要請にイスラエルが応じない場合は、制裁(経済・外交面)発動を検討すること。

併せて、特に日本政府には、以下のことも要望する。

7.上記1~6の措置を日本政府が諸外国の政府、特にイスラエルへの軍事援助・兵器供与、支持を続けている米国等の政権に対しても求めること。

8.日本とイスラエルとの防衛(軍事)当局間の交流・協力の停止。イスラエルからの武器調達や、軍事技術の共有、武器共同開発も行わないこと。

9.イスラエルとの経済協力の見直し。経済連携協定を締結しないこと。

10.イスラエルとの外交関係の見直し。既に日本政府はイスラエルが1967年占領地からの撤退やパレスチナ人の権利尊重等の要請に従わない場合はイスラエルに対する政策を再検討する可能性に言及したことがあるが(1973年の二階堂官房長官談話)、現在のイスラエルによる国際法違反・人権蹂躙の実態は当時よりはるかに深刻化している。

 現在ガザやヨルダン川西岸、レバノン等で進行中の事態に対し、これを放置・黙認している国際社会には重大な責任がある。私たち中東研究者は日本および世界の市民と連帯・協力して、一刻も早く流血を止め、人間性の回復、公正な平和の実現のため力を尽くしたい。

2024年11月7日

呼びかけ人:

飯塚正人(東京外国語大学)、鵜飼哲一橋大学)、臼杵陽(日本女子大学)、大稔哲也(早稲田大学)、岡真理(早稲田大学)、岡野内正(法政大学)、栗田禎子(千葉大学)、黒木英充(東京外国語大学)、後藤絵美(東京外国語大学)、酒井啓子千葉大学)、長沢栄治(東京大学)、長沢美抄子(ライター)、奈良本英佑(法政大学)、保坂修司(日本エネルギー経済研究所)、三浦徹(お茶の水女子大学)、山岸智子(明治大学)、山本薫(慶應義塾大学)以上17名